投票を売った大人たちへ、PRODUCE 101 操作事件の話

101

事務所ごとにスタジオに入ってくる練習生たちは、ひな壇に並べられた数字の書かれた椅子を一人一人選んで、腰掛けていく。

不安と期待をもっての入場、気後れする者、虚勢を張る者、入場者に対する値踏み、そして羨望、様々な感情の入り混じったその場面は、楽屋の様子を覗き見するような緊張感があって、私は一機に番組に引き込まれていた。

『PRODUCE 101』にハマったのがきっかけで、このブログを始めた。

デビューの決まったI.O.Iメンバー、それから惜しくもメンバーの選から漏れてしまった残りの練習生たちを応援したいと思ったからだ。

だから、投票操作事件のニュースが出た際は、非常にショックをうけた。毎週の順位発表に一喜一憂していたのは何だったんだろう?

何が起きたのか

Mnetの『PRODUCE 101』シリーズで、視聴者の有料投票の結果が、制作側によって組織的に書き換えられていたという事件。

シリーズはシーズン1(I.O.I)、シーズン2(Wanna One)、『PRODUCE 48』(IZ*ONE)、『PRODUCE X 101』(X1)と続いた。視聴者が課金して票を投じ、その積み重ねでデビューメンバーが決まる。そういう建前の番組だった。建前だった、という過去形が、この事件のすべてを表している。

どうやって発覚したのか

きっかけは、視聴者が自分ではじいた電卓だった。

2019年7月19日、『PRODUCE X 101』の最終回。デビュー圏に入る順位が発表された。放送を観ていた一部の視聴者が、上位に並んだ得票数を書き写し、隣り合う順位どうしの「票差」を計算してみた。

すると、同じ数字が何度も出てきた。「29,978票」という差が、1位と2位、3位と4位、6位と7位……と、計5回も繰り返されていた。さらに、「7,494票」か、その10倍の「74,945票」という差が計6回現れていた。何十万という独立した票が積み上がるなら、順位ごとの差はバラバラになるはずだ。それが判で押したように揃うのは、自然な投票では起こらないはずだ。

もう一つ、上位20人の得票数が、すべて「7,494.442」という一つの数字の整数倍になっていたのだ。票が積み上がった結果ではなく、決めた総数を順位ごとに配分して作った数字ではないのか?そう考えないと説明のつかない並びだった。

得票数に残っていた不自然な数字の規則性を示す図解

デビューが確実視されていた人気練習生たちが相次いで脱落し、予想外の練習生が選ばれたことも、視聴者の不信感を強める要因となった。

しかも、これはこの回だけの話ではなかったのだ。勢い、前作『PRODUCE 48』の数字も調べると、そちらは「445.2178」の倍数で揃っていた。シーズンごとに“種の数字”が違うだけで、やっていることは同じだった。

当初、Mnetはこれを「単なる集計ミス」と説明していた。だが、この規則性を説明できるものではなかった。1票100ウォンの有料投票だったから、詐欺の疑いがあるのではないか?。2019年8月1日、視聴者272人が「真相究明委員会」を結成してMnetを提訴し、ソウル地方警察庁の捜査が動き出した。

そして、家宅捜索で、決定的な証拠が出た。制作スタッフのスマートフォンから、順位の操作を認める音声データが見つかったのだ。捜査は、全4シーズンと『アイドルスクール』にまで及ぶ組織的な捏造を裏づけていく。

2019年11月5日、番組の演出を務めたアン・ジュニョンPDと、チーフプロデューサーのキム・ヨンボムCPが逮捕される。アンはのちに、放送が始まる前から1位から20位までの順位をあらかじめ決めていたことを認めた。内部で“PDピック”と呼ばれていたやり方だ。視聴者が電卓ではじいた違和感が、制作の中枢を引きずり出したことになる。

何が、どこまで仕組まれていたのか

捜査と起訴で明らかになった中身は、想像より根が深かった。

アンPDたちはデビューメンバーをあらかじめ決めておき、その練習生が上位に来るように票数を操作していた。しかも、ただの独断ではない。アンは芸能事務所側から接待を受けていたとされ、報道によれば、その飲食接待には1億ウォンを超える額が使われたという。デビューの枠が、金と人間関係のなかで動いていたわけだ。

起訴は2019年12月3日。アン、キム、そして事務所関係者ら計8人が、業務妨害・詐欺・贈収賄などの罪に問われた。検察は「全4シーズンの有料投票の結果が操作された」と結論づけている。ある回だけの特定の事故ではない。この仕組みは、最初からそういうものだった

番組ごとに、何が起きたのか

「全シーズンで操作した」と一括りにされがちだが、中身は番組ごとに少しずつ違う。『PRODUCE 101』シリーズの4作に、同じMnetのオーディションだった『アイドルスクール』を加えて、放送された順に並べてみる。手口が、回を追うごとに露骨になっていくのが分かる。

落とされた練習生の名前は、裁判所が公表した分だけを挙げる。繰り上がって「得をした」側は、公表されていない(前に書いたとおり、一次資料の側で名前が伏せられている)。

2016年『PRODUCE 101』シーズン1(→ I.O.I)

1次投票の結果と、最終ラインナップが入れ替えられた。判明しているのは、1次で2人、最終で1人の計3人。名前が出ているのは、1次で落とされたキム・スヒョンソ・ヘリン。最終段階の1人は非公開。得票数の「倍数」までは特定されていないが、ある事務所が10万件を超えるIDを悪用してネット投票を水増しした疑いも報じられている。

2017年前半『PRODUCE 101』シーズン2(→ Wanna One)

こちらも、1次投票と最終順位が操作された。落とされたのは、1次のソン・ヒョヌと、最終のカン・ドンホ(ベクホ)。ベクホについては「本人がデビューを望んでいない」という意思をくんだ操作だったとされるが、裁判所は彼も被害者と認めている。

2017年夏『アイドルスクール』(→ fromis_9)

シーズンとシーズンの合間に挟まっていたのが、これだ。第2話から最終話まで、ほぼ毎回、順位が書き換えられていた。その回数、計233回。不当に落とされた練習生は、番組全体で10人にのぼる。最終的にデビューした9人のうち3人は操作で繰り上がり、本来入るはずだった3人が弾かれた。名前が出ているのは、視聴者投票で実際は1位だったのに「グループのイメージに合わない」と外されたイ・ヘイン。ほかに、名前を伏せられた被害者が2人いる。手口は、オンライン投票の数を5倍に水増しするというものだった。(この番組はこのブログにとって特別なので、あとでもう一度書く。)

2018年『PRODUCE 48』(→ IZ*ONE)

ここから、露骨になる。最終生放送の2〜3日前には、視聴者の投票と関係なく、デビューする12人が丸ごと決められていた。落とされたのはイ・カウン(実際は5位)とハン・チョウォン(実際は6位)。得票数は、総投票数を1万で割った「445.2178」という数字の倍数になるよう、きれいに計算されていた。

2019年『PRODUCE X 101』(→ X1)

最後は、もう隠す気もなかったように見える。放送前に1位から20位までを丸ごと決め、そのうえ1次・3次の投票でも手を入れていた。最終の11人全員に加えて、1次で1人、3次で2人が影響を受けている。落とされた側では、アンザルディ・ティモテ、キム・グクホン、イ・ジヌ、ク・ジョンモ、イ・ジニョク、クム・ドンヒョンらの名前が公表されている。そして、この回の得票数がすべて「7,494.442」の倍数だったこと、それが、すべての発覚のきっかけになった。

誰が、どう裁かれたのか

  • アン・ジュニョンPD … シリーズ全4季のメイン演出。視聴者投票を操作し、見返りに芸能事務所から数千万ウォン相当の接待を受けていた。詐欺・業務妨害・背任収賄などに問われ、懲役2年と追徴金およそ3,700万ウォン
  • キム・ヨンボムCP … シリーズ全体の総括プロデューサー。アンPDと共謀して順位操作を主導した。詐欺・業務妨害で 懲役1年8か月
  • キム・テウンCP … 『アイドルスクール』の制作総括。第2話から最終話まで、ほぼ全回で順位を捏造していた。一審の懲役1年が、控訴審で 懲役8か月 に減刑。
  • 『アイドルスクール』の元制作局長 … 企画・制作の管理役。控訴審で共犯と認定され、懲役4か月・執行猶予1年
  • そして、練習生を抱える芸能事務所の関係者5人。自分の事務所の練習生の順位を上げてほしいと、PD側に接待という賄賂を渡していた側だ。報道によれば、このなかにはスターシップの代表と副社長が含まれ、ほかにウリム、8Dクリエイティブ、アラウンドアースの関係者もいた。接待は2018年1月から2019年7月まで、『PRODUCE 48』と『PRODUCE X 101』の時期に集中し、総額はおよそ4,000万ウォンを超えた。一審の罰金刑は、検察の控訴で それぞれ懲役8か月・執行猶予2年 に引き上げられ、確定している。
  • くわえて、票の集計を担っていたサブプロデューサー1人が罰金1,000万ウォン。

『PRODUCE 101』本体で起訴され有罪になったのは、この計8人だ。ただし判決文では、全員が「A」「B」……と伏せ字で書かれていて、事務所の名前も出てこない。上に挙げた事務所名は、判決文ではなく報道によるもの。

一審は2020年5月29日。実刑は控訴審でも維持され、最高裁まで争われて確定した。控訴審は、はっきりこう認定している。「最終メンバーはすでに決まっていたのに、票を操作して、有料投票した視聴者を欺いた」と。

罰を受けた人たちのその後

実刑が確定し、彼らは服役した。話は、そこで終わっていない。ここは、あまり報じられない部分だ。

報道によれば、キム・ヨンボムCPは満期出所後、2022年初めに、社内の懲戒処分を経てCJ ENMの「グローバルミュージックTF」へ復職したとされる。『アイドルスクール』のCPだったキム・テウンも、2022年に出所したのち、人事委員会の懲戒を経て復職し、2023年4月の時点でMnetの「事業部門」で勤務していることが確認されている。そしてアン・ジュニョンPDも、満期出所からおよそ1年5か月後の2023年4月、Mnetに再入社したと報じられた。本人の希望で、会社は「もう一度機会を」と受け入れたという。

つまり、票を操作した中心人物たちは、服役を終えたのち、そろって同じ会社に戻ってきた。

さすがに、反応は厳しかった。アンの再入社が報じられると批判が集まり、Mnetは「再採用は誤った判断だった」と公式に謝罪した。そのうえで、彼の去就については「議論中」だと表明した。

ただ、そこから先は、はっきりしない。彼が本当に籍を外したのか、それとも配置転換などで在職し続けているのかは、公になった資料からは確認できない。再入社と、その撤回をめぐる報道は2023年ごろで途切れていて、最終的にどうなったという結末は見つけられなかった。

はっきりしているのは、一点だけ。一連の事件の影響で、彼が今後どこかの放送局でアイドルサバイバル番組を作ることは、もうないだろうと見られている。

投票操作事件のたどった道を示す年表

そして、グループはどうなったか

人が裁かれる一方で、いちばん割を食ったのは、何も知らなかったアイドルたちだった。

  • X1(『PRODUCE X 101』)…スキャンダルの直撃を受け、2020年1月に解散。デビューから数か月、アルバム1枚で終わった。
  • IZ*ONE(『PRODUCE 48』)…活動を一時停止したのち再開し、契約満了に伴って2021年4月に解散。
  • Wanna OneI.O.I…発覚の時点で、すでに解散済みだった。

CJ ENMは被害を受けた練習生への補償を表明し、Mnetはこの一件を受けて、デビュー型のサバイバル番組はもう作らないと宣言した。視聴者に順位を決めさせるという看板を掲げたジャンルは、こうして自分から幕を引いた。

補償は、まだ終わっていないのかもしれない

裁判で「不当に落とされた」と特定された練習生は、『PRODUCE 101』シリーズで12人。CJ ENMは、そのうち11人には2021年8月までに補償金の支払いを終えた、と発表している。

問題は、残る1人だ。報道によれば、この1人(の所属事務所)とは、その時点でも金額の折り合いがついていなかった。Mnet側は「事務所が現実離れした額を求めている」と説明し、双方の主張は食い違ったままだったという。

そして、その1人に、結局きちんと支払いが行われたのかどうかは、いまも分からない。Mnetは「最後まで責任を持って補償する」と言った。それでも、「12人全員への支払いが完了した」という続報を、見つけられなかった。

補償額そのものは公表されていない。ただ、算定の考え方だけは伝わっている。「その子が、本来の順位でデビューしていたら得られたはずの収入」。奪われた時間を、無理やり金額に置き換えた数字だ。その最後の一人分が、今も宙に浮いたままなのかもしれない。

もう一度、『アイドルスクール』のこと

さっき「あとでもう一度書く」と言った番組の話をしたい。手口そのものは上に並べたとおりだが、この番組はこのブログにとって、少し特別だ。ガールズグループの話だから、むしろ本丸かもしれない。

『アイドルスクール』は2017年放送。「アイドルになるための学校」という設定で、41人の練習生が11週間レッスンを受け、視聴者投票で選ばれた9人がfromis_9(プロミスナイン)としてデビューした。I.O.IやIZ*ONEと違い、期間限定ではない、ずっと続く前提のグループだ。その土台のほうが、最初から作り物だった。

象徴的なのが、イ・ヘイン(이해인)の件。彼女は実は、視聴者投票で1位だった。それなのに最終回で11位と発表され、落とされた。理由は、CPが「グループのイメージに合わない」と考えたから、というもの。番組の途中まではずっと上位9人に入っていたのに。彼女は2019年、自ら番組(MBC『PD手帳』)に出て「ラインナップは最初から決まっていた」と告発しており、捜査はその訴えが正しかったことを裏づけた。判決のなかで、裁判所はわざわざ彼女の名前を挙げている。投票1位の練習生を、大人の「イメージ」の一存で消す。それが、有料投票という看板の裏で起きていたことだ。

念のため、fromis_9のメンバーたちには、何の責任もない。繰り上がってデビューした3人が誰かも、公表されていない。彼女たちもまた、何も知らされていなかった側だ。グループは解散せず、その後も活動を続けている。罪があるのは、子どもの夢で帳尻を合わせた大人のほうだ。

「落とされた人」は公開、「得した人」は非公開

ここが、この事件のいちばん大事なところだと私は思っている。

2020年、裁判所は操作によって落とされた側(被害者)の名前を公開した。本来デビューできたはずなのに弾かれた練習生たちだ。これは、被害を正しく救済するためという目的があった。

一方で、操作で繰り上がった側の名前は、裁判所が意図的に伏せた。その理由は、判決文にはっきり書かれている。要約すると、「有利に順位を操作された練習生の名簿を公開することも考えた。しかし、その多くは自分の順位が操作されていること自体を知らなかったとみられる。順位操作を口実に事務所へ従属させられるような状況すら起きており、彼ら自身も被害者と見る余地がある。だから公開しない」。

司法は、「誰が得をしたか」という問いに、あえて答えなかった。答えれば誰かが石を投げられると分かっていたからだ。そして、この記事のあちこちで名前をぼかしているのも、もとをたどればこの判断に行き着く。

では、I.O.I はどうなのか

このブログを読んでいる人がいちばん気になるのは、たぶんそこだろう。私もそうだ。

シーズン1も操作と無縁ではなかった。アンPDは全シーズンの操作を認めているし、シーズン1でも1次投票の段階で不当に落とされた練習生(キム・スヒョン、ソ・ヘリン)の名前は公表されている。報道のレベルでは、I.O.Iの最終ラインナップに関わる順位の入れ替えがあったという話も出た。

ネット上には、当時の投票数を逆算して「この子が怪しい」という“考察”が転がっているし、実際に裁判に足を運んで得た情報を書いているものもある。ただ今となっては、どれが正しくて、どれが間違っているか判断できるものは残念ながら無い。

おわりに

個人的な感想を。

どう考えても、これは氷山の一角としか思えない。もっと大物が裏にいたと誰しも勘ぐるはずだ。逮捕された人たちは罪を償ったわけだし、「罪を憎んで人を憎まず」とはいう考え方もあるし、そもそもProduce101のシステムを作ったってだけで埋もれてしまうには惜しい才能ではある。それでも多大な損失を会社に与えながら、再雇用など普通はやはり考えられない。これだけ社会的に影響を与えながら、その後がうやむやなのは、なんらかの忖度を感じるのだ。どこかの国の芸能界みたいに。

そして、MnetはProduce101シリーズを作らないと宣言したけれど、今もそのフォーマットは他国に販売され、新作が作られているのだ。

イジェン・アンニョン


※この記事は、基本的に裁判の認定事実と報道をもとに、確定した範囲だけを書いている。個人を特定する憶測は、意図的に避けた。

※本文で「1人」「誰がどう影響を受けたか」など、あえて個人名を挙げず曖昧に書いている箇所があるが、これは配慮のためだけではなく、韓国では判決文などの一次資料の段階で、関係者の氏名が伏せ字(비실명化)で公開されるため。実際、大法院の公式資料でも当事者は「安○○」「金○範」と表記されており、そもそも名前を特定できないことが理由でもある。

※事件の判決=一審 ソウル中央地裁 2019고합1019(2020年5月29日)/控訴審 ソウル高裁 2020노1069(2020年11月18日)/大法院 2020도17078(2021年3月11日確定)。刑や人数は、この控訴審判決文(無料で全文公開)で確認した。

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